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【日本ダービー レース回顧】浜中俊騎手にもたらした『五つの運』

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2019/5/27 23:00

 第86回日本ダービーは浜中俊騎乗、12番人気ロジャーバローズ(牡3・栗東・角居勝彦)が低評価を覆して優勝。2番手から早め先頭に立ち、そのまま後続を完封した。勝ちタイム2分22秒6(ダービーレコード)。

 圧倒的人気に支持されたサートゥルナーリアがスタートで痛恨の出遅れ。これが全ての始まりだった。いや、もっと遡ればロジャーバローズとの出会いに始まり色んなことがあったはずである。

 「ダービーは最も運のある馬が勝つ」昔からあるこの格言を体現したような今回の日本ダービーを少し紐解いてみたいと思う。


2019年の日本ダービー(JRA公式YouTubeより)

一つ目の運
「浜中騎手の手からヴェロックスが離れていった」
 ヴェロックスのデビュー戦は昨年8月の小倉・芝1800m。当媒体ではこの日たまたま小倉競馬場に取材で訪問していた。4コーナーから馬なりで8馬身差ととんでもない馬が登場したなと思ったのを記憶している。この時の鞍上は浜中俊騎手で、レース後の談話では「いい出会いになりました」と満面の笑みでコメントしていた。

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 そして2戦目の野路菊ステークスで圧倒的人気に支持され2着に敗れると、重賞初挑戦となる3走目の東京スポーツ杯で飛ぶ鳥を落とす勢いのC.ルメールにスイッチ。その後はダービーまで3戦連続川田将雅騎手が騎乗している。タラレバを敢えて申し上げるが、もしデビュー以来順当に乗り続けていたらどうなっていたかなど勿論わかるもんではない。しかし当然ロジャーバローズとの出会いもなかったであろうし、巡り合わせとは不思議なものである。

 京都新聞杯の時点で今年のダービーに騎乗馬がいるかどうかわからなかった浜中騎手が語っていたように「本当に競馬は最後までわからない」この言葉に集約されているように思う。その時のコンディションで勝った負けたを繰り返し、騎乗馬が入れ替わることは往々にして起こるのだが、決してお手馬を失ったことが良かったと言っているわけではなく、結果論としてダービ制覇に繋がった出会いを生んだのは事実である。

二つ目の運
「ロジャーバローズとの巡り合わせ」
 ロジャーバローズはデビュー戦から戸崎 → 松山 → 川田とトップジョッキーを通過して最終的に浜中俊騎手に回ってくるのだが、他のジョッキーで結果が出ていれば当然状況も変わったであろう。よくジョッキーの談話で「いい時に乗せてもらいました」というコメントを聞くことがあると思うが、まさにそのいい時だったのかもしれない。

三つ目の運
「京都新聞杯で2着に滑り込む」
 浜中俊騎手は京都新聞杯でロジャーバローズに騎乗が決定したが、その時点ではまだ2勝馬。ダービー出走確定という状況ではなかった。賞金加算が絶対的なノルマの中、キッチリと期待に応えて最低限の仕事は果たしている。

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 前半1000mを60秒、ラスト800mから11.8-11.7-11.5-12.1と徐々に加速して後続の追い上げを許さずラストこそレッドジェニアルの瞬発力に屈したが、危げない逃げを披露した。長くいい脚を使う特性を生かして、きっちりテン乗りで結果を出した。それによりダービーでも騎乗依頼を受け、見事に第86回日本ダービーを制することになった。

四つ目の運
「横山典弘騎手リオンリオンの乗り替わり」
 ダービーの前週に横山典弘騎手が騎乗停止、リオンリオンが横山武史騎手に乗り替わりとなった。これに関してはダービーの展開に大きく関わる問題だろうとは思っていたが、初騎乗のダービーで思い切りの良い騎乗を見せた横山武史騎手は前半を57秒台とハイペースで飛ばしレースを引っ張った。のちに浜中騎手は「ある程度ペースが速くなった方がいいなと思っていた」と絶好の展開だったとレースを振り返っている。ダービー『初騎乗』の横山武史騎手が展開に与えた影響は少なからずあったように思う。タラレバ論は良くないと思いつつも横山典弘騎手だったら果たしてこのようなペース、レースになっただろうか…。

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五つ目の運
「サートゥルナーリア痛恨の出遅れ」
 極めつけは大本命馬の出遅れだった。圧倒的人気のサートゥルナーリアが出遅れるという想定がどこにあっただろうか。同馬が出遅れたことにより、有力馬が動けず固まってしまった可能性は十分にあり得る。内が有利のCコースとなりこの高速馬場、2分22秒台前後は想定出来る馬場状態で出遅れはほぼ終わりに近い。ましてや超絶ハイペースの逃げも重なり、後続も動こうにも動きにくく、直線で勝負するしかなかった。

【日本ダービー】サートゥルナーリアは痛恨の出遅れ4着敗退

 出遅れて好枠から一転、厳しい立ち回りを強いられたサートゥルナーリアは、勝負どころで外から早めに押し上げていくもラストは失速。レース後、レーン騎手も「いつもより後ろからになってしまった」とレースを振り返っていた。本来想定していたのはダノンキングリーを見るような位置、そのあたりの先行集団から抜け出すレースになるはずだったように思う。後方に断然の人気馬が回ったことで、いくら前が止まりづらいとはいえ、中団前後に構えた有力各馬の先行馬への意識が薄れていったことは少なからずあったであろう。

 巡り合わせとタイミングとは本当に面白い。しかし運だけでダービーを勝てるわけもなく、ジョッキーや陣営が積み重ねた日々の準備が生んだ勝利である事は言うまでもないであろう。人馬共に大一番で素晴らしい走りを披露した結果だったように思う。

 そして2年連続2着となった戸崎圭太騎手は、ロジャーバローズのデビュー戦に騎乗し1着となっている。まさか自らが勝たせたその馬に負けるとは想像もしていなかったに違いない。ダノンキングリーで完璧な立ち回りを見せたが、ほんの僅かに運が向かなかったようだ。