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【日本ダービー回顧】騎手の状況判断が運命を分けたダービー
2017/5/30 12:15
5月28日(日)東京競馬場・第10R・第84回日本ダービー(G1・3歳オープン・芝2400m)で、2番人気C・ルメール騎手騎乗、レイデオロ(牡3・美浦・藤沢和雄厩舎)が、2着に3/4馬身差をつけ戴冠。2着に3番人気スワーヴリチャード(牡3・栗東・庄野靖志厩舎)、3着に1番人気アドミラブル(牡3・栗東・音無秀孝厩舎)。勝ちタイムは2分26秒9(良)。大混戦といわれたダービーも終わってみれば上位人気3頭での決着となった。
休み明けの皐月賞でインの窮屈な位置から5着まで脚を伸ばしたレースぶりと、2歳時のホープフルS(G2)快勝が評価され2番人気に推されたレイデオロ。馬体重480kg(-4)と明らかに良化しスッキリとした馬体とみなぎる闘志、ダービーを狙った完璧な仕上げはさすが名伯楽・藤沢師。ただ何よりも、後方からのレースばかりだったレイデオロを向こう正面から道中2番手まで押し上げていき、最後の直線は前週のソウルスターリングのVTRを見ているかのように馬場の真ん中を強気の早め先頭で押し切ったルメール騎手の神騎乗が光った。2着のスワーヴリチャードは、-12kgも東京巧者ぶりを発揮し4角好位先団から直線よく伸びたがレイデオロを捕らえることはなかったが、こちらも皐月賞のウップンを晴らす好走だった。一方、青葉賞を驚異のレコードで勝ち1番人気に支持されたアドミラブルは、戦前の予想通り大外枠と超スローペースに泣いた形だ。前走のような直線早め先頭というレースに持ち込めなかったのが響いた。名手デムーロ騎手でも位置を取りにいく事は厳しかったのか、直線の伸び脚は際立っていただけに悔やまれる。2週連続でピンク帽8枠から大外強襲の3着と、ルメール・デムーロ両騎手の明暗がはっきりと分かれた3歳の頂上決戦となった。
レース展開は、スタートはほぼ互角も、18番アドミラブル(デムーロ)は懸念されていた通り行き脚つかず最後方グループの外。12番レイデオロ(ルメール)も後方集団の外目につける。3番マイスタイル(横山典)が気合いをつけて先頭に立ち、皐月賞馬7番アルアイン(松山)も前へ。ペースを作ると思われた5番クリンチャー(藤岡祐)は、コメントにあった通り「押しても行けなかった」と馬の状態がイマイチだったのか好位のインに収まってしまった。4番スワーヴリチャード(四位)は絶好位の中団で2角を回る。
向こう正面、1000m通過が1分3秒2という超のつくドスローの流れの中、突如ルメール・レイデオロが外を回して進出開始、一気に2番手につける積極策。これには観客から、掛かったのか?とどよめきが起こった。連れてペルシアンナイト、アドミラブルも動き出すが先頭まで行き切る事は無かった。結果的にはこの判断が最後まで影響した。
本当に勿体ない競馬に映ったのはアルアイン。松山騎手自身も「何も出来なかった」とコメントしていたように、好位の動ける位置でポジショニングをしながら直線に向くまでどんどん位置どりを悪くしていった。
4角では痺れを切らして自ら動き出したスワーヴの四位騎手がインから弾き飛ばして、外目の5.6番手を回されてしまう。これがダービーで人気馬に乗る事の重圧なのか完全にフリーズしたまま直線を向かえてしまったのは、最後再び伸びているだけに残念だった。
凝縮した馬群のまま4角から直線へ。最内ポツンと逃げ粘るマイスタイル、馬場の真ん中からレイデオロが早くも先頭に立とうという勢い。直後にペルシアンナイト、スワーヴリチャードが2馬身後方の外、その外にアルアイン、さらに後方の大外に振られたアドミラブルという態勢で残り500m。坂を登って残り300mからは究極の瞬発力勝負。レイデオロが先頭に躍り出るもスワーヴリチャードが馬体を併そうと半馬身差まで接近。アドミラブル、アルアインとは決定的な差が開き一騎打ちの様相。ラスト100mでレイデオロが力強く加速、食い下がるスワーヴリチャードを叩き合いで競り落としセーフティリードでゴール。結局、前を譲ることは無かった。大外からアドミラブルも良く伸びているが3着を確保するので精一杯、勝ち馬からは2馬身差。4着に脅威の粘り腰を見せたマイスタイルが残り、もっと積極的に攻めれば違った結果になったかもしれない皐月賞馬アルアインは5着に終わった。以下、6着ダンビュライト、7着ペルシアンナイト、サトノアーサーは10着。道中、直線入口での位置取りが大きな意味を持つ結果だった。
勝ちタイム2分26秒9(良)は、前週のオークスより2秒8も遅い、タイム的には大凡戦。直前に行われた同距離の青嵐賞(4歳上1000万下)が2分23秒8だったことを考えると、トラックバイアスは雨の影響無関係の高速馬場のまま、Cコース替わりだったが、前週のように内有利とまでは言えない、やはり騎手同士の微妙な駆け引きが影響したと思われる。完全なる超ドスローのよーいドン、上がり勝負の競馬だった。勝ち馬の上がり3ハロンは33秒8、2着馬で33秒5、3着馬が最速で33秒3。なんと33秒台が半分の9頭。35秒台がいないという非常にレアなダービーとなった。注目すべきは、スローに落としてレースを支配した横山典。若手が積極的に行かなかったのに対して、前でないと勝負にならないと読んだベテランの手腕はさすがだ。そしてルメール。大一番、しかも2番人気を背負った差し追込み馬で向こう正面から仕掛けて先団につけ、直線も早々と先頭に立つ自信満々の騎乗ぶりには驚かされた。が、引き上げてくる際に目頭を拭う仕草や普段は見せることの無い鬼気迫る表情、さらには高揚したアクションなど、名手ルメールと言えど賭けだったに違いない。それに勝っての3週連続G1奪取、オークス・ダービー制覇という偉業はまさに神騎乗。乗れているジョッキーの判断が今年のダービーのすべてだった気がする。蛇足ながら、最終の目黒記念も人気薄でルメールが勝った。神ってるとはこのことだ。
勝ったレイデオロは、父キングカメハメハ、母ラドラーダ、母父シンボリクリスエスという血統。一昨年のドゥラメンテに続く父子ダービー制覇となった。走ることにしか興味の無い馬、周囲の喧噪に動じない馬、と評されているというレイデオロは、サンデー系を持たない血脈として、このあと種牡馬としても大いに期待が持てる。
管理する藤沢和雄調教師(65)は、悲願のダービー初制覇。開業から30年目、出走19頭目の挑戦での栄冠となった。クラシックに無縁と言われた時期もあった名伯楽は、前週オークスを勝ち、一気にダービーまでも奪取。JRA重賞100・101勝目を最高の形で達成した。これでG1は26勝。
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