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角居勝彦元調教師が取り組むホースセラピープロジェクト

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2022/2/20 21:30

 世界的にSDGsの取り組みが高まりを見せる中、スポーツ界にも広がりを見せている。昨年誕生した一口馬主クラブ「インゼルサラブレッドクラブ」のクラブ法人「インゼルレーシング」が、競馬界における持続可能性に着目。インゼルレーシングでは、地道に活動を続けられている方々にスポットをあてて紹介していくところからスタートし、その第一回は角居勝彦元調教師から引退馬ケアの活動についてインタビューを行った。馬を走らせる馬主として、どのような活動が出来るのか、社会が思い描くSDGsを馬主活動の一環として、どう表現することが出来るのかなどを少しずつ考えていく。

角居勝彦元調教師インタビューVol.1
聞き手・インゼルレーシング代表・松島悠衣

●競馬界に対する問題意識と、引退馬に注目された背景は?

角居:調教師になる以前から担当馬を持っていたのですが、JRAのシステム上3歳の夏くらいまでに一勝をあげないと残れないというルールの上で成り立っています。その中でも地方に行ける馬と行けない馬がいます。明らかに能力が足りていない馬もいますが、ちょっとしたこちらの選択ミスとか調教のオーバーワークなどで、こちらの足りていなかった部分によって勝ち残れなかった馬たちを出してしまったのはあると思うんですね。

 若い頃は、そういったことで勝ち残れなかった馬が出てしまっていたのですが、そうなると、少し責任を感じてしまっていましてね。若い頃に、「その後どうなるんですかねえ」なんて聞くと、「あんまり追っかけるな」と言われて「ああそういうことか」ってわかったということがありましたね。

 そして、調教師になってからですが、一頭二頭助けてもあんまり答えにならないし、そういう大きなシステムで何か助ける方法はないかということを、良い成績を出せるようになってから考えるようになりましたね。

 しかし逆に、競馬は優勝劣敗の世界なんで、勝たずに負けた馬ばっかり追いかけてもね。勝ち続けながらこういう活動をやらないとダメだなということを思いながら、自分のモチベーションの糧としてやっていましたよ。

●これまで幾度となく勝馬を輩出されてきた角居先生だからこそ、その言葉に説得力がありますね。

角居:従業員にも「お前が失敗したら殺処分になるんだぞ。」と言う話も、あくまで言葉として言っていました。当然ですが従業員の働く時間というのは労働基準法で決められているし、休みもちゃんと確保してあげなくちゃいけないけど、手を抜くところは自分で考えてくれよということを言っていましたね。

●そう言ったことも従業員にお話しされているのですね。業界ではこの話題はタブーのように感じていました。

角居:そうですね。言葉にしたら「じゃあ調教師責任取れるの?」というような状況になると思うんですよね。だからそういう活動をしながらじゃないと言えない言葉ではあるかなと思います。

●56歳で勇退ということですがきっかけというのは何だったのでしょうか?

角居:輪島は祖母の作った教会があり、過疎化が進む街で、教会を守ってきた信者さんも80歳を超えてきました。身内が作った教会なので他人に任せっぱなしではいけないという状況になってきていて、その時点で預かっていた馬もいました。猶予がなかったわけですが、「辞める」って決めたのはその馬たちがクラシック出てからだなと思っていたので、それが終わって2021 年で引退しました。

角居勝彦元調教師が取り組むサラブレッドを使った地方創生

勝てなかった馬たちを助ける方法は何かなと探した

●家業を継がれるということで引退を決意されたのですね。引退される前からホースセラピーのプロジェクトを立ち上げられていましたが、ホースセラピーに着目されたきっかけは何だったのでしょうか?

角居:「勝てなかった馬たちを助ける方法は何かな」と探した時に、いちばん最初に見つかったのがホースセラピーだったんですね。引退した競走馬が地方競馬に行くことは分かっていたんですけど、乗馬でこんなにたくさん利用されているっていうのはあんまりわかってなくて、それでホースセラピーという道でも生きる道があるなら、ホースセラピーを勉強したいなということで始めましたね。

●今もプロジェクトを継続されているんですね。それはどういったところが難しいですか?

角居:はい。課題と問題点がとても多いです。かなりハードルが高いプロジェクトです。まず、医療従事者がいないとホースセラピーにならないのです。なので、馬だけ癒して助けるというのはあるかもしれないですが、本当は馬を使って人を癒す、ホースアシステッドセラピーということをしなければいけないですね。それをやっていきたかったですが、それには、医療従事者に理解があるか、技術者がどれだけいるか、それに適応した馬がどれだけいるか、その現場があるのか、人材がいるのか、お金があるのか。三巴(みつどもえ)で何もなかったんです。

Vol.2へ続く

角居勝彦 Sumii Katsuhiko
1964年石川県金沢市生まれ。2000年に調教師免許を取得し、2001年に厩舎を開業する。以後 19年間に、JRAでG1 26勝、重賞競走計82勝を含む762勝の栄冠を掴む。最多勝利3回、最多賞金獲得5回など13回のJRA賞を受賞。地方、海外を合わせたG1勝利数は38勝。デルタブルースでメルボルンカップ、シーザリオでアメリカンオークス、ヴィクトワールピサでドバイワールドカップを勝つなど国内にとどまらない活躍をする。56歳で引退。現在、現役時代から取り組んできた引退馬のセカンドキャリア支援や障がい者乗馬など福祉活動に尽力している。

・一般財団法人ホースコミュニティ
代表理事 角居勝彦
「馬」を介在したノーマライゼーションの実現及び健康社会の構築を目指しています。
http://www.horse-com.org/

・認定特定非営利活動法人サラブリトレーニング・ジャパン
理事長 角居勝彦
岡山県吉備中央町への「ふるさと納税」を使って引退競走馬のリトレーニングを行っている。
https://www.thoroughbret.org/

インゼルレーシング
インゼルサラブレッドクラブが提供する競走馬ファンドのクラブ法人として、2020年11月にJRAから許認可を取得、馬主活動を開始。代表取締役は松島悠衣。(株式会社マツシマホールディングス、株式会社キーファーズ取締役)