競馬コラム
【たかぎさんコラム】金メダリスト・萩野公介さん「脳みそが焼き焦げました」武豊騎手に誘われ、初めて競馬場で見た天皇賞・秋
10時間前
【たかぎさんのおはなし−競馬と人がつないでくれる日常−】
萩野公介さんと、競馬の話をする機会があった。競泳の話ではない。最初から最後まで、ほとんど競馬の話だった。
萩野さんが通っていたスイミングスクールは日曜日が休みで、中学生の頃から昼間にテレビで競馬を見るようになったという。
ただ、競馬を見始めた理由は、それだけではなかった。
「これ、あんまりメディアには言ってないんですけど、ちょっと恥ずかしくて言えてなかったんですけど……当時の僕、AKB48が大好きすぎて」
大島優子さんを応援していた萩野さん。AKB48のメンバーが競馬番組に出演する機会も多く、「その策略にまんまとハマって、それで最初は見てましたね」と笑った。
僕が「タイトル決まりましたね。『大島優子推しの萩野公介』」と言うと、すぐに返ってきた。
「いや、もう迷惑でしょ、さすがに(笑)」
競馬を見始めた頃に走っていたのは、オルフェーヴルやゴールドシップ。毎週のテレビ観戦から始まった競馬との付き合いは、2016年に大きく変わる。
【動画】ドウデュースが制したジャパンカップ武豊騎手のひと言で、初めての競馬場へ

リオデジャネイロオリンピックで金メダルを獲得した後、萩野さんは水泳のとある先輩の紹介で、武豊騎手と初めて会った。
萩野さんが競馬好きだと知っていた先輩がサプライズで機会をつくってくれたという。その席で武豊騎手から「今度レース見に来なよ」と声をかけられ、初めて競馬場で観戦したG1が、2016年の天皇賞・秋だった。
武豊騎手が騎乗したエイシンヒカリを応援しながら、東京競馬場でレースを見守った。エイシンヒカリは直線に向いた時点では先頭。しかし、最後はモーリスが差し切った。
当時の萩野さんは、マイルを中心に走ってきたモーリスにとって2000mは長いのではないかと見ていた。パドックで初めて実馬を見た時にも、「ゴリゴリのマッチョすぎんか」「これ2000m走れんのか?」と思ったという。
その見立てを、モーリスの走りがひっくり返した。
「坂を上がってから、もうすんごい勢いで上がってきて。その瞬間、もう脳みそが焼き焦げました。『うわ、これが競馬か!』と。かっこいいし、鳥肌立つし、ドラマもあるし。めちゃくちゃ面白いなと思って」
競馬場へ行ったこと自体、その日が初めてだった。今でも1年で一番好きなレースは天皇賞・秋だそうだ。
馬券は3連単から始まり、複勝やワイドを経て、最近は単勝と馬連が中心。パドックを見るのは好きだが、「正直、素人なんで分からない」と本人は言う。馬券を考える際には、血統や枠順、騎手、調教師などを見ることが多いそうだ。
「『芝のキズナ牝馬』と『ロードカナロアの距離短縮』。これですね」
自分なりの格言まで、すらすら出てくる。
競馬を通じて生まれた縁もある。
「キーファーズの松島さんには、すごくお世話になっています」
松島正昭さんの所有馬、ドウデュースが勝った天皇賞・秋やジャパンカップでは、武豊騎手や関係者と一緒に口取り写真にも入った。松島さんのおかげで、セレクトセールにも一度足を運んだという。
ドウデュースと愛馬、どちらを応援すればいいのか

萩野さんは一口馬主としても競馬を楽しんでいる。出資馬の一頭が、菊花賞を勝ったドゥレッツァだった。
選んだきっかけは、母モアザンセイクリッドの実績。父だけではなく、母の血統も気になるという。カタログや動画を見ながら、一頭ずつ自分で考えて選んでいるそうだ。
ドゥレッツァがドウデュースと同じジャパンカップを走った時は、いつもとは少し違う感覚だった。
「あれは、どっちを応援していいか分からなかったですね、本当に」
一口馬主を続ける中で、菊花賞を勝つ馬に出会った。一方で、1勝することの難しさも感じている。
「1つ勝つのがすごく難しいことは、これだけ続けていたらよく分かります」
将来、自分が馬主になることも夢の1つだという。
「そんなふうになったら幸せだなとは思います」
もし馬を選べるなら、ドウデュース産駒は気になる。ただ、父だけではなく母の血統にも目が向く。ダートの中長距離や、少し長めの距離にも対応できそうな馬を考えると、母父マンハッタンカフェのような血統にも惹かれるそうだ。
早い時期から走る馬にも魅力を感じるが、「個人的には、ちょっと長く頑張ってほしい」と話す。1つ勝ち上がり、そこから良くなって、長く走ってくれたら嬉しいという。
競馬の仕事に呼ばれることも嬉しい。仕事なのかプライベートなのか、自分でも分からなくなることがあるらしい。
「趣味というか、人生のサイクルの1つなんですよね」
水曜日には出資馬の近況更新が届き、木曜日は朝から出馬表を見る。週末に向けて、生活も競馬と一緒に動いていく。
萩野さんが馬券で得意としているのは、ダートの中長距離だ。中山のダート1800mや東京のダート2100m。なぜそこまで惹かれるのかを聞くと、競泳選手だった萩野さんらしい答えが返ってきた。
「僕が水泳でやっていた種目が、男子400m個人メドレーっていう、結構タフな種目なんですよ。水泳の中でも3本の指に入る、すっごいきつい種目だったんですけど。ダートの中長距離って、みんな最後の直線で脚が上がるじゃないですか。なんか自分を投影しちゃうんですよね、そこに(笑)」
僕と萩野さんをこうしてつないでくれたのも、やっぱり競馬だった。競馬の話をしていると、オリンピックの金メダリストと話していることを忘れそうになる。
でも、ダート中長距離で脚が上がった馬に、400m個人メドレーを泳いでいた自分を重ねる。そこには、萩野さんにしか見えない景色があった。
今度、萩野さんと一緒にダート中長距離を見る機会があったら、最後の直線では、馬だけではなく萩野さんの顔も見てしまうかもしれない(笑)。
◇たかぎさん(高木翔太)
都内在住、35歳。マーケティング・コンサルティング事業を手がける傍ら、一口馬主クラブなど競馬関連の仕事にも携わる。競馬歴約7年。ディープインパクトとの出会いをきっかけに競馬の魅力に惹かれ、現在は馬主資格も取得。競馬を通じた人とのご縁を大切にしている。
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