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【たかぎさんコラム】武幸四郎調教師、知らない牧場にも自ら電話「びっくりされるけど」北海道で続ける馬探し

たかぎさんのおはなし

2026/8/28 20:05

武幸四郎調教師

【たかぎさんのおはなし−競馬と人がつないでくれる日常−】

 前回、武幸四郎調教師に「調教師って、何をする仕事なんですか?」という話を聞いた。馬を見て、調教して、レースに送り出す。もちろん、それが大切な仕事なのだけれど、実際には馬主さんとのやり取りがあり、牧場にも行き、これから自分の厩舎に入る馬を探すこともある。

 中でも面白かったのが、幸四郎さんの「馬の探し方」だった。セレクトセールやセレクションセールに行って馬を見るだけではない。北海道へ行き、自分で牧場を回る。しかも、誰かに連れていってもらうのではなく、基本的には一人。まだ行ったことのない牧場にも、自分で電話をかけるという。

「武です、馬を見せていただけますか」

 そこまでして馬を探す理由を聞いていくと、幸四郎さんが調教師として大切にしていることが、少し見えてきた。

「孤独すぎてね。でも楽しいっす、本当に」

牧場写真

 幸四郎さんが調教師として開業したばかりの頃、当然ながら今のように馬を買ってくれるオーナーがたくさんいたわけではなかった。セールへ行って下見をしても、新人調教師に「この馬がいいですよ」と言われて、すぐに何千万円という馬を買ってくれる人ばかりではない。

 それから10年近くが経ち、今では幸四郎さんが薦めた馬を買ってくれる馬主さんもいる。だからセールだけではなく、自分で日高へ行って馬を探すことも多いという。

「うちの従業員なんかは、大体、月火いないから。『遊んでんのかな』と思われて」

 いちいち「今日は牧場へ行ってきます」と説明するわけでもないので、厩舎のスタッフから見れば、月曜日と火曜日になると幸四郎さんがいなくなる。でも実際には北海道へ飛び、そこから車で牧場を回っている。

 しかも、有名な牧場だけではない。名前は競馬新聞などで見たことがあっても、実際に行ったことがない牧場もある。そういうところを自分で調べて、電話をかける。

「それこそ知らない牧場も調べて、電話して行ったり。びっくりされるけど」

 電話をして、前日にも「何時頃伺います」と連絡する。マネージャーがいるわけでもなく、自分で予定を組み、一人で車を走らせる。話を聞いていると、僕が想像していた「調教師の北海道出張」とはだいぶ違った。

 もっと関係者が何人かいて、牧場側が予定を組んでくれて、みんなで馬を見て回るようなものを勝手に想像していた。でも幸四郎さんの場合、もっと地道だった。

 僕が「従業員の方と一緒に行ったりしないんですか?」と聞くと、ほとんどないという。馬主さんと一緒に行くことも、セレクトセールなどを除けばあまりない。

「孤独すぎてね」

そう言ったあと、すぐに続けた。

「楽しいっす、本当に。一人だから」

 この言葉が、すごく幸四郎さんらしい気がした。誰かに頼まれて仕方なく北海道を回っているわけではない。自分で馬を見つけること自体を楽しんでいる。

そして、そこにはちゃんと目的がある。

「あのオーナーだったら、この馬が合うかもしれない」

そんなことを考えながら、一頭ずつ見て回っているのだ。

「探した馬が走れば、こんなに嬉しいことはない」

たかぎさんと武幸四郎調教師(写真提供:たかぎさん)

 僕がこの話を面白いと思ったのには、理由がある。以前、幸四郎さんから馬の探し方について聞いた時から、もし僕が本格的に馬主を始めることになったら、一番最初にお願いしてみたいのは幸四郎さんだと思っていた。

 そのことを本人にも伝えた。なぜなら、単純に「高くていい馬」を薦めるという話ではないからだ。馬主さんによって、馬に求めるものは違う。

 「ダートでいいから、ちょっと稼ぐ馬を探してほしい」という人もいれば、「一頭でいいから速そうなのを探してほしい」という人もいる。「3000万円ぐらいで、稼ぎそうな馬」という具体的なオーダーもあるという。

幸四郎さんは、そういう希望を聞いてから馬を探す。

 例えば、予算が決まっていて、ある程度コンスタントに走ってほしいという馬主さんに、2400mでダービーを狙うようなタイプばかりを薦めても仕方がない。当たれば大きいけれど、その分、結果が出ない可能性も高くなる。

 それなら短いところで走りそうな馬や、ダートで稼いでくれそうな馬を探す。逆に「一頭でいいから大きいところを狙いたい」という人なら、選び方も変わってくる。馬を選ぶ前に、まず馬主さんが何をしたいのかを考える。僕には、そこがすごく面白かった。

 幸四郎さん自身に「このレースを絶対に取りたいから、こういう馬が欲しい」という希望があるのか聞いてみたこともある。

答えは、

「ないない」

だった。

 新潟の千直でも、ダートでも、どこでもいい。まず、その馬主さんが望んでいることに合わせたいという。もちろん、実際に馬を見つけても買ってもらえるとは限らない。

 北海道まで行き、知らない牧場に電話をして、何頭も見て、「これはあの人にいいかもしれない」と思う馬を見つける。それでも連絡してみたら、「やっぱり今年は買うのをやめる」となることもある。

「色々探してみたけど、『やっぱ買うのやめるわ』とか、ショックになる時もありますよ」

 いい馬を見つけて「誰かにお願いしようかな」と考えているうちに、ほかの人に売れてしまうこともある。それでも、また探す。

「ほんとその人のためにやっているだけですね。探した馬が走ればこんなに嬉しいことはないですよ」

 この言葉を聞いて、僕が幸四郎さんに馬を探してもらいたいと思った理由が、改めて分かった気がした。もちろん、セレクトセールで何千万円、何億円という馬を買うのも馬主の楽しみ方だと思う。有名な種牡馬の産駒を持つことも、大きな夢の一つだ。

でも僕は、北海道のどこかで幸四郎さんが一頭の馬を見つけて、

「これ、高木さんに合うんじゃないですか」

と言ってくれる方が、なんだか楽しそうだと思ってしまう。

 まだ誰も注目していない馬を、自分のために探してもらう。その馬が成長して、幸四郎さんの厩舎に入り、いつか自分の勝負服を着て競馬場を走る。

走るかどうかなんて、もちろん分からない。でも、その馬を探していたところから物語が始まっている。競馬って、そういう楽しみ方もあるんだなと思った。

◇たかぎさん(高木翔太)
都内在住、35歳。マーケティング・コンサルティング事業を手がける傍ら、一口馬主クラブなど競馬関連の仕事にも携わる。競馬歴約7年。ディープインパクトとの出会いをきっかけに競馬の魅力に惹かれ、現在は馬主資格も取得。競馬を通じた人とのご縁を大切にしている。

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